安本晴翔インタビュー

インタビュー

公開日:2019/6/6

取材・撮影 茂田浩司

6月9日の「REBELS.61」(後楽園ホール)で次世代のキック界を担う逸材同士の対決が実現した。
 セミファイナルのREBELS-MUAYTHAIフェザー級王座決定戦の「SILENT ASSASSIN」安本晴翔(橋本道場)対「破天荒な天才児」栗秋祥梧(クロスポイント吉祥寺)。
 安本には公開練習でぜひ多彩かつ華麗な足技を披露して貰いたかったが「今、大学が忙しくて公開練習に行けません」とのことで急遽、電話インタビュー。






 ――4月から大学生。
「駿河台大学の現代文化学部のスポーツ文化コースに通っています。保健体育の教員免許も取れるところで、月曜日から金曜日まで午前中から午後4時半までびっしりと授業があって出席が厳しくて休めないんです(苦笑)。高校は通信制だったので、授業が終わると昼寝してから練習に行けたんですけど、それが出来なくなったので寝る時間は短くなりました」

――キャンパスライフは?
「特に面白いこともなく(笑)。ただ、キックをやっていることはみんな結構知ってて『見たことがある』と言われて、ちょっとびっくりしました。SNSの友達つながりとかかもしれないですけど」

――今回は「REBELS.61」のセミファイナル。注目が集まっていますね。
「ああ、相手が栗秋選手で、女性ファンがいっぱいいるからですよね(笑)。試合を見て、僕のファンにもなってほしいです(笑)」

――栗秋選手からは公開練習で「倒し方を教えてあげる」と挑発されていました。
「はい、記事を読みました。倒されないようにします(笑)。僕は自分のスタイルで頑張ります」

――前回(REBELS.60)は通常より重い59キロ契約。しかも対戦相手の般若HASHIMOTO選手が1.7キロオーバーでリング上では68キロまで戻ってた。しかし試合でパワー負けしなかったのは、階級を上げてパワーも上がったからですか?
「階級を上げたからというか、減量が1、2キロでほとんどなかったので、その分、思い切り動けたのかな、と思います。
 普段の体重は60と61キロの間ぐらいで、今、身長は173、174cmです。またちょっと伸びました(笑)。最近、筋肉が付いてきた感じはありますね。練習では首相撲を30分はやっていますし、体の大きな人とも練習してるので。橋本道場のフィジカルトレーニングの成果ですね」

――この試合に向けて特に強化した点や「ここを見てほしい」というアピールポイントは?
「蹴りを一番見てほしいです。練習は普段通りにやってきました。特にどこを強化したとかはないです」

――今後の目標はありますか?
「えっと……、とりあえず有名にはなりたいです。REBELSのベルトを獲って、また大きな舞台に上がれるチャンスがあれば嬉しいです」



橋本道場・橋本敏彦会長

「晴翔君は『努力する天才』なんですよ。はじめた頃は覚えが悪かったけど、ずっと練習してた。小学生の頃は熱を出すと、学校を休んで1日中寝て、熱を下げてから道場に来てたよ(笑)。それぐらい練習を休まなかった。好きなんだろうね。ジュニアの頃は150戦して、ホームタウン(デシジョン)と体重が5キロも違う相手といい試合をしたけど負けて。それ以外は一度も負けていなかったよ。
 まだプロではジュニアの頃のような『いい試合』は出来ていないね。特に去年は怪我が多かった。身長がまた伸びて、筋肉も付いて、体が成長していたからね。
 栗秋君とは、お互いに倒す武器を持っている同士だから『お客さんが見たいカード』だよね。栗秋君は24歳? 同い年なら晴翔君が上だと思うけど、5歳も違うし『格上』の相手だと思ってますよ。
 簡単に言えばパンチ対蹴りで、栗秋君の左フックで倒されるかもしれないし、晴翔君がパンチに蹴りを合わせて倒しちゃうかもしれない。相手のパンチに合わせてミドルで腹を狙ったり、晴翔君のタイミングの良さは素晴らしいものがありますよ。
 勝負が終盤までいけば晴翔君だろうね。後半になればポイントは『腹とロー』ですよ。晴翔君はどちらも強いからね(ニヤリ)」(談)

プロフィール
安本晴翔(やすもと・はると)
所  属:橋本道場
生年月日:2000年5月27日(19歳)
出  身:東京都東大和市
身  長:173cm
戦  績:2016年6月デビュー。15戦12勝(4KO)1敗2分
INNOVATIONスーパーバンタム級王者

「反逆のアンダードッグ」大野貴志インタビュー

インタビュー

公開日:2019/6/3

取材・撮影 茂田浩司

「反逆のアンダードッグ」大野貴志、
自ら引き寄せたビッグチャンスに燃える
「『誰だ、お前?』って言われるだろうけど、それが面白い。
『かませ犬』が思い切り噛みついて、自分の人生変えますよ」

 「REBELS.61」(2019年6月9日(日) 東京・後楽園ホール。開場17:00、本戦開始17:15)でKING強介と対戦する大野貴志。「王者対決」の好カードが今、さらなる注目を浴びている。5月20日の「KNOCK OUT新体制発表会見」で、この試合が8月18日の「KO CLIMAX 2019」(大田区総合体育館)でおこなわれる「MTM Presents 初代KING of KNOCKOUTスーパーバンタム級王座決定トーナメント」の出場者決定戦となることが発表されたからだ。
 大野貴志は言う。「アンダードッグ(かませ犬)が思い切り噛みついて、人生変えます」






デビュー2年半で初タイトル獲得も、その後は伸び悩んだ
「いつも踏み台。俺に勝った選手はみんな上がっていった」



 格闘技を始めたのも、29歳の今もその道を歩んでいるのも、すべては格闘技が大好きな父親が強引、かつ熱心に息子の背中を押したからだ。
「7歳から空手の道場に入門したんですけど、父親に無理やり通わされました(苦笑)。中学1年の時に士道館新座ジムに入門してキックボクシングを始めたんですけど、自分の同年代だと空手かムエタイ。まだジュニアのキックはなかったですね。だから、中学の頃は練習もそこそこで(笑)、試合はまったくやってないです」
 高校は1年で中退し、父親の経営する水道設備の会社に入社。職人として働きながらキックボクシングを続けて、2009年、19歳でプロデビューを果たした。

「最初に全部、父親と契約があったんですよ。空手も最初の頃はやりたくなかったし、キックもそうだったんで『ランカーになったら辞めていい』とか『チャンピオンになったら辞めてもいい』って、どんどんハードルが上がっていって、やってるうちに自分自身でキックにハマってました(笑)」

 父親は熱心に応援してくれた。試合ともなれば、母親と連れだって観戦に来て、試合後は家で反省会が開かれた。
「試合に負けたらすげえ怒られました(苦笑)。父親なりに自分の試合を見て、自分のクセとかを研究してて、家に帰ると必ず反省会です。試合を振り返りながら『蹴りが出ねえ、パンチがこうだ』っていろいろ言われましたね」

 父親は、残された時間とエネルギーをすべて、我が子が強くなるために使うと決めていたのだ。
「父親は肺気腫を患っていたんです。昔の職人なんで、アスベストとか一杯吸って、具合が悪くなってからは経営してた会社も畳んで。自分がデビューしてからはほぼ毎試合、母親と一緒に試合を見に来ていたんですけど、初めてタイトルを獲った後に、最期は肺がんで亡くなりました」
 大野は2012年1月、MA日本バンタム級タイトルマッチに勝利して初めてベルトを獲得。プロデビューからわずか2年半でチャンピオンになり、格闘技の道に強引に導いた父は息子がベルトを巻く姿を見届けてから旅立った。

「試合前は必ず父親の仏壇に手を合わせて、それから会場に行きます。格闘技が本当に大好きだったんで、自分がタイトルを何個も獲ったり、REBELSで試合をしていることを喜んでいると思いますよ」

 その後、大野は数々のタイトルを獲得し、王座を防衛してきた。
 MA日本バンタム級王座は4度の防衛に成功し、2014年にはBigbangスーパーバンタム級王座を獲得(1度防衛)。2017年にはWMC日本スーパーバンタム級王座獲得。
 輝かしい実績を残してきた反面、大野は何度も「屈辱」を味わってきた。
「自分はタイトルを獲ることにこだわりはなくて『勝ち負け』の方が大事なんです。これまで自分が負けた相手は、自分と試合した後に売れていくんですよ(苦笑)。注目されて格闘技雑誌にインタビューが何ページも載ったり、KNOCK OUTで活躍したり、大出世していく。自分はずっと『踏み台』にされてきたんです(苦笑)。
 いつか絶対にリベンジしたいと思って、追いかけているとタイトル戦の話をいただくんで『じゃあここは頑張って獲ろう』と思って。それでタイトルを獲ってきましたけど、それを目的にしてやってきたわけじゃないです」

 小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)も、大野がリベンジのチャンスを求めて追いかけてきた一人。2016年3月9日「REBELS.41」で対戦し、3RTKO負けを喫した。小笠原は「2冠王の大野に勝利」という実績をたずさえて55キロのトップ戦線に浮上し、KNOCK OUTへ参戦。持ち前の攻撃力で55キロの中心選手に躍り出た。
 一方、大野にはKNOCK OUTに参戦するチャンスすら与えられなかった。

「KNOCK OUTの関係者にはずっと『出たいです』とアピールしてましたけど『うん、見てるよ。チェックしてるよ』とあしらわれてて(苦笑)。『俺は評価されてない。これは無理だな』とあきらめかけていたんです」

 だが、大野は思わぬ形でチャンスを掴むことになる。






試合順に不満を表明し、鬱憤を試合にぶつけた大野に「気持ちを見せてくれる」と山口代表は高評価。
「MTM Presents 初代KING of KNOCKOUTスーパーバンタム級王座決定トーナメント出場者決定戦」でKING強介と激突!
「アンダードッグが主役に噛みついて、倒します」



 今年1月、大野は「パンクラス・レベルス・リング1」の公開記者会見に出席。コメントを求められると、試合順や自分の扱いに対する不満を爆発させた。
<「この試合がメインでもいいかな、ぐらいに思ってたんですけど、それだけの評価をされてない、と分かったんで(DAYの第10試合)。テクニックとスピードで勝負して、しっかりとKOで勝って、試合内容で『REBELSのベルトを獲りにいく』と伝えます。(対戦相手の炎出丸とは)熱量が違う。上に行きたい選手は片っ端から倒して、以前負けた小笠原選手とやらせてほしい」>(記者会見でのコメント)

 ムエタイ現役王者シップムーンと戦う日菜太や「パンクラスレベルストライアウト」のぱんちゃん璃奈対川島江理沙に注目が集まる中、大野の「異議申し立て」は強烈な印象を残し、山口代表は「ああいうアピールは良かった」と高評価。試合も炎出丸相手にアグレッシブに攻めて、2RTKO勝利を収め「大野貴志」の存在をREBELSに刻みつけた。

 大野にとって、記者会見は待ちに待った「チャンス」だった。
「あんなにちゃんとした会見は初めてだったんです。自分がどういう考えを持ってるかをもっと知って貰えたらいいと思うんですけど、なかなか言う機会もないんです。普段の大会だと試合前のインタビューといってもアンケートに答える形で、自分は文章を書いて伝えるのが苦手なので(苦笑)。
 あの時は『炎出丸選手(元J-NET王者)も自分もお互いにタイトルを持ってるんだから、もっとなんかあってもいいんじゃないか?』と思ってたので、素直に言おう、と。会見が終わった後で『あ、山口さんが横にいたんだ』と気がつきました(苦笑)」

 大野にとって、1戦1戦が大事な勝負だった。昨年5月に職人の仕事を辞めて、現在に至るまで「キックボクシング1本」で生活をしているのだ。
「ずっと職人との二足の草鞋でやってきたんですけど、来年3月で30歳になるし、一度キック一本で勝負をしてみよう、と。最高の環境に自分を置いてどこまでトップ選手たちと戦えるか。もうそれしかなかったです。そこまで自分で自分のケツを叩いたらもっと上に行けるのか、自分に挑戦してみたかったんです」

 キック1本にして練習に専念したことで、試合内容にも変化が現れた。
「基本、1日2部練ですけど、ボクシングは毎日ボクシングトレーナーに教わってキックと同じぐらいパンチの練習をしてます。元々パンチが好きなんですけど、もっと磨きを掛けてきて、今、3連続でKO出来てます。炎出丸選手との試合も本当はパンチで倒したかったんですけど、ヒジ3発打って2発切れました。ずっとヒジありの試合をやってるんでヒジの練習はしてきましたけど、ヒジでのTKO勝ちは初めてで(笑)。それも、パンチの練習を積んで踏み込みが速くなったからかな、と。結果として出てきてるんで、キックに専念してみてよかったと思ってます」

 自分自身、進化している確かな手応えを感じているタイミングで、今回のチャンスが舞い込んできた。
「KING強介戦が決まる前から『6月に勝ったら8月がある』とは聞いてて。でもいろんな人が調べて『どうも8月はREBELSじゃないらしいぞ』『でも何のタイトルだろう?』と(笑)。薄々は気づいてましたけど、まさかプロデューサーが山口さんに代わって、いきなりKNOCKOUTの55キロトーナメントをやると思わなかったし、そこに自分が出れるチャンスを貰えるとは。あの発表があった後は周りからも『KNOCKOUTに出れるの? テレビに出れるの?』って、反響が全然違いますよ」

 大野は、自分がどう見られているかをよく分かっている。

「REBELSに行けば、REBELSチャンピオンのKING強介選手の応援が多いだろうし、KNOCKOUTのお客さんは『トーナメント決勝戦で江幡塁vs小笠原瑛作』を期待してるだろうし。だから、自分が出ていけば『なんだ、あいつ。知らねえよ』ってなるでしょう。全然いいです。むしろ、そう思って貰った方が美味しいんで(ニヤリ)。
 『かませ犬』だろうと、オファーを貰えたら自分の勝ちなんですよ。それでプロデューサーの考えを覆して勝ち上がったら最高じゃないですか(笑)。『絶対に勝てない』と言われてる方が気持ちも乗るんで」

 士道館新座ジムの工藤秀和会長は言う。
「大野の良さは我慢強いところです。運動能力はそんなに高くなくて、不器用で、怪我も色々としてきましたけど、それでも我慢して上を目指してやってきました。今回、チャンスはチャンスですけど『勝負』です。負けたら後がないですから、思い切り勝負に行かせます」

 大野は「倒して勝つこと」しか考えていない。
「会長にはデビュー前から『プロは倒す選手じゃないといけない。判定ばかりで勝ってるようではダメ。格闘技はスポーツじゃない』と教えられてきて、ムエタイの選手みたいな、綺麗にテクニックを見せて、ポイントを取って勝つ試合は出来ないんで。
 自分は勝つ、イコールKO。KOを逃して判定になったら負けます。そんな試合をするんで。
 KING強介選手との試合は、相手がどうこうよりいかに練習したことを冷静に出せるか。セコンドにはいつも『冷静に、行き過ぎるな』と言われるんですけど、攻撃し始めるとブアーっと行きたくなるんです(苦笑)。KING選手は魂のこもったパンチで打ち合いを仕掛けてくるだろうから、パンチで打ち合ってもいいし、実は自分はどの攻撃でも倒せる武器は持ってるんで。『倒せるチャンス』は逃がさないですし『倒せる選手だ』とアピールしたいですね」

 KING強介を倒せば、念願のKNOCKOUT参戦が決まる。「人生を変えたいです。テレビに出たいし、街中で声を掛けられたいです。一度、試合が終わった後に池袋で酔っ払いに『さっき見てたぞ!』って声を掛けられて、後楽園ホールにいた誰かの応援なんだろうけどそうじゃなくて(苦笑)。
 自分、これまでタイトルを何個か獲らせて貰って、今、引退しても『キックボクサーをやってた』と胸を張って言えるんですよ。
 ただ、みんなチャンピオンを目指して頑張ってるんですけど、チャンピオンになっても何も変わらないです。『じゃあもう1個獲ったら有名になれるの?』と思って頑張っても、タイトルを何個獲ろうが会場の外に出れば誰も知らない。それじゃ一緒なんですよね。
 ベルトの数じゃなくて、自分のキャラと戦い方のスタイルで売れていくんだな、と分かったのがKNOCKOUTです。だから、今回は自分がどんなスタイルで、トップ選手相手にどんな勝ち方が出来るのか。それを見られると思うんで『コイツ、チャンスを目の前にした時は本当にすげえな!』って思われる試合をします。
 今回は、チャンスはチャンスだけど、ここで掴めなかったら消えるだけですよ。だから、とにかく倒す。自分の底力を見せて倒して上に行く。頑張ってる後輩たちにも、チャンスを掴めばこうやってインタビューを受けたり、雑誌に載ったりして、顔も売れていくし、人生が変わるんだ、というところを見せたい。
 KING強介、江幡塁、決勝戦は小笠原瑛作でしょう。『アンダードッグ』(かませ犬)が主役に噛みついて、倒してのしあがっていくところをぜひ見に来てください」


*対戦相手、KING強介(きんぐ・きょうすけ)のコメント。
「この試合は『瞬間』で仕留めるので、絶対に見逃さないように。REBELSのチャンピオンとして、REBELSの看板を背負ってる俺の拳は重いよ! 勝って、新たな標的とやれると聞いて、ますます燃えてきた!!」

プロフィール
大野貴志(おおの・たかし)
所  属:士道館新座ジム
生年月日:1990年3月5日生まれ、29歳
出  身:埼玉県新座市
身  長:166cm
戦  績:2009年5月デビュー。38戦25勝(14KO)12敗1分。
WMC日本スーパーバンタム級王者。第17代MA日本バンタム級王者。第3代Bigbangスーパーバンタム級王者。

“熱闘甲斐拳士”葵拳士郎インタビュー

インタビュー

公開日:2019/5/26

取材・撮影 茂田浩司

山梨が生んだ2冠王は、会社員との兼業ファイター。
木村“フィリップ”ミノルと同い年、デビュー日も一緒。
「今の活躍はいい刺激になってます。自分も『葵拳士郎』の名前を大きくして、いつかテレビに出てみたい」






1RKO負けの悪夢から復活し、王座防衛成功
「あんなぶざまな試合は二度と出来ない」



 5月16日、REBELS恒例の大会出場選手による公開記者会見がおこなわれた。会見後、REBELSスタッフがこぞって「きちっとしてる」「好青年」と絶賛したのが葵拳士郎だった。
 集合時間の30分前に会場入りした葵は、スタッフや会見場所となった伊原道場の伊原代表に挨拶して回り、ピシっとスーツで正装すると開始まで控え室で待機していた。
 物腰も柔らかく、さすが会社員との兼業キックボクサー、という感じ。この日も午前中は通常通り会社で業務をこなし、午後は会見に参加するためにわざわざ山梨から東京・代官山に駆け付けた。
「ずっと参戦したかったREBELSさんの大会で、日菜太選手たちを差し置いてメインイベントに選んでいただきましたし。やはり記者会見には参加しなくてはいけない、と思いまして」

 東京の選手と違って、地方で現役を続けながら、なおかつ国内トップクラスと戦ってチャンピオンベルトを獲得するためには様々な困難を乗り越えなくてはならない。葵も苦労しながらここまでキックを続け、すでにINNOVATIONとWBCムエタイ日本統一王座の2冠を獲得。今回の試合で3冠目を目指す。

 3人兄弟の末っ子。7つ上と3つ上の兄が空手をやっており、葵も5歳から空手道場に入門した。
「最初は嫌で、毎日『辞めたい、辞めたい』と思ってました(苦笑)。そのうちテレビでK-1を見て、ピーター・アーツとかが活躍しているのを見て『強くなりたい』と思って、兄は二人とも中学で空手を辞めてしまったんですけど、自分だけはずっと続けました」

 空手のジュニア大会で優勝68回、ジュニアキック18戦16勝の実績をひっさげて、高校2年、17歳になる10日前にプロデビュー。高校卒業後はプロキックボクサー、空手道場指導員、アルバイトという生活を続けた。
「アルバイトを2つ掛け持ちしながら指導と練習をする生活をしているうちに『これなら普通に働きながらキックボクシングを続けられるんじゃないか』と考えました。それで、4年前に自分の事情を理解して、受け入れてくれたアクセサリーの卸会社に就職しました」

 朝は7時起床。出社して夜6時まで仕事をし、夜7時半から10時まで練習をする生活。
「土曜日も仕事があって、完全な休みは日曜日だけですね。普段、会社ではアクセサリーを置く什器を作ってまして、大工さんみたいな作業をしてます(笑)。午後はアクセサリーを陳列したり、週2日は表に出て営業もしますし、出張で全国各地に行くことも多いです」

 キックボクサーとしての転機となった試合として、葵は昨年4月の新日本キックでの高橋亨汰(伊原道場本部。REBELS.61では「REBELSvs新日本キック対抗戦」で大谷翔司(スクランブル渋谷)と対戦)との試合を挙げる。

「高橋選手のハイキックで1RKO負けをしてしまったんです。自分がどうこうではなくて、応援に来てくれた人たちの『ああ……』という顔を見て、本当に申し訳なくて……。
 こんなぶざまな試合は二度と出来ない、と思いました。その次は昨年7月のINNOVATION王座の防衛戦が決まっていたので『これで負けたら引退だ』と決めて臨みました」

 元山祐樹(武勇会)との防衛戦は激しい打ち合いとなった。葵はパンチとキックをバランス良く当ててポイントを奪ったものの、元山のヒジを被弾し、右目を大きく腫らした。ドクターチェックも入ったが、5ラウンド終了間際に葵がバックブローでダウンを奪い、これが決定打となって判定勝利し、初防衛に成功。
「ギリギリでなんとか勝てました。自分は今まで、試合になると全体的に守る時間が多かったんですけど、あの時は『守りに入る理由』がなかったです。守りも大事ですけど『攻めないと自分は引退だ』と思うとがむしゃらでしたね。攻める時間を増やして、精神的に前向きにやれたんじゃないか、と思うんです」






戦っている時は本当に楽しいです。
超強い鈴木選手との試合でもまず自分自身が楽しみ、見てる人にも楽しい試合をして、勝って、サポートしてくれる彼女や応援してくれる人たちを笑顔にしたい



 6月9日(日)、REBELS.61のメインイベントで葵と対戦するのは、デビュー以来10連勝、そのうちKO勝ちが7という「倒し屋」の鈴木宙樹(クロスポイント吉祥寺)。公式インタビューでは早速『口撃』が。
「遠慮しないで言っていいんですか? 対戦相手の葵選手の試合を見たんですけど『全然上手くないな。これでチャンピオンなんだ』と思いましたし、自分の中ではラッキー、ぐらいに思ってます」
「葵選手は2冠王ですけど、自分は普段、8冠王のT-98(タクヤ)さんと練習してますし、強い先輩たちとバンバンやってるんで。全然、何ともないです」

 これに対して、葵はあくまで大人の対応。
「インタビューを読みました。なんか言われてましたねー(苦笑)。でも、自分は基本的にイライラしたり、人に対してムカついたりとかも全然しないので。逆に、鈴木選手がああいう風にストレートにバンと言ってくれて、練習に身が入りましたね。『こんな風に言われてるんだから練習を頑張らないとな』って」

 葵は、鈴木を「格下」とは見ていない、という。
「キャリアは全然、自分が上ですけど、格下なんて思ってなくて。いつも言っていることですけど、たとえ防衛戦でも常に挑戦者の気持ちでいるので。鈴木選手がインタビューで言ってたのも、自分はKOも少ないですし、負けも一杯あるので言われても仕方ないな、という気持ちもありますし。今回、こうやってタイトルマッチで、いきなり勢いのある活躍してる選手とやらせて貰えるんですから、嬉しいし、勝つしかないですね」

 鈴木の所属するクロスポイント吉祥寺は、格闘技ジムとして日本有数の設備と、ムエタイ、ボクシング、フィジカルの専門トレーナーが常駐する豪華スタッフ陣を誇る。
「確かに羨ましい気持ちはありますね。自分より強い人の中で揉まれるのはいいことですし。だからって負ける気は全然ないです。人には人それぞれのやり方がありますから」

 今年2月の「パンクラスレベルスリング1」で才賀紀左衛門と激闘を展開して『漢気(おとこぎ)の拳』を知らしめた浅川大立(ダイケンスリーツリー)も葵と同じ山梨県在住で「山梨だとなかなかスパーリングするのも厳しい。上のレベルになると東京に出ていく選手も多い」と嘆きつつ「練習環境に恵まれていようと自分次第。やるヤツはどんな環境でもやる」と言っていた。

 葵も、浅川と同じ考えだ。
「確かにスパーリングは難しいです。でも、対人練習は大事ですけど、相手が中学生だろうが、自分一人だろうが『練習できてない』はなくて、誰が相手でも何かしらの練習は出来るんです。だから『一緒に練習する人がいない』とか、仕事の忙しさを言い訳にしたくないですね。どんな状況でも、なんかの練習は出来ますから」

 葵が、山梨県在住で2冠王を獲れたのもそうした信念があるからだろう。
 ちなみに、K-1やKRUSHで活躍する木村“フィリップ”ミノルは、同い年で、プロデビュー日も一緒の同期だ。
「プロになりたての頃は一緒に練習していて、その頃からハードパンチャーでしたよ。今は連絡を取り合うこともあまりないですけど、チャンピオンになった時とかは『おめでとう』とメッセージを送ると、向こうからも『俺もいつも結果を気にして見てるよ』って。それは素直に嬉しいですし、同じ日にデビューした彼が活躍しているのはいい刺激になりますね」

 鈴木戦に向けたプランはすでに出来ている。
「パンチ、特に右が伸びて来るので気をつけたいですけど、蹴りも上手いですし『オールラウンダー』ですよね。全体的に気をつけて、そう簡単にはいかない選手ですけど、3ラウンド目にはきっちりと倒したいと思っています。
 自分は、これといった技もなくて、KO勝ちも少ないですけど、下がらず、どんどん前に出ていく『気持ち』はしっかりと皆さんに見ていただきたいです」

 葵は、現在、上り調子だ。
 昨年7月の初防衛成功後、怪我でブランクはあったものの、今年2月のNJKFでは琢磨(東京町田金子ジム)に判定勝利し、WBCムエタイ日本統一王座奪取に成功。その陰には、交際している彼女の献身的なサポートがあった。
「彼女は普通に働いているんですけど、自分の食事のサポートをすごいしてくれています。前回の試合の時はすごく減量が順調に行っったんです。練習や試合でも『前よりも体力がついたな』と実感しますし、体作りは食からなんだと改めて感じました。家のことも色々とやってくれて、すごく感謝しています」

 REBELSでのメインイベント出場にも「特にプレッシャーはないです」という。
「正直なところ、プレッシャーはそんなに感じていないです。自分のモットーは『楽しむこと』なんです。自分が辛い顔や暗い顔をして試合をしていると、見ているお客さんに伝わってしまって、絶対に面白くないと思うんです。
 性格的には気性が荒いわけではないですし、人を殴ってどうのこうのもないんですけど(笑)、負けず嫌いですし、戦っている時は本当に楽しいです。それプラス、勝って、みんなの笑ってる顔を見たらなおさら『やってよかった』となりますね。
 今の夢は……、テレビに出たい、というのはありますね。元々、K-1をテレビで見て憧れて格闘技をやってきましたし、今、格闘技が昔のようにだんだん盛り上がってきて、KNOCKOUTさんも結構テレビでやっていますから。ああいうイベントが出来たことは自分にもいい刺激になっていて、ずっと『いつか出たい』と思っていました。
 そのためにも『葵拳士郎』の名前をもっと大きくしていきたいですし、応援してくれる人や支えてくれる彼女のためにも、今回はREBELSのベルトに挑戦する気持ちで、超強い鈴木選手との試合を自分自身が思い切り楽しんで、見てる人も楽しませて、その上で勝ちたいと思っています。応援、よろしくお願いします」

プロフィール
葵拳士郎(あおい・けんしろう 本名 勝俣郁弥)
所  属:マイウェイジム
生年月日:1993年10月1日生まれ、25歳
出  身:山梨県富士吉田市
身  長:170cm
戦  績:2010年9月プロデビュー。31戦15勝(3KO)12敗4分。
INNOVATION&WBCムエタイ日本統一スーパーフェザー級王者

鈴木宙樹インタビュー

インタビュー

公開日:2019/5/10

取材・撮影 茂田浩司

「2冠王の葵拳士郎選手が相手でも全然問題ないです!REBELSのベルトは僕が巻きます!」
デビューから10連勝で初タイトルマッチ&メイン抜擢!
「倒し屋」ヒロキが強気な理由。

 「黄金の左ミドル」山口元気&「逆転の貴公子」高橋ナオトが「規格外の才能」と認める22歳のホープ、鈴木宙樹。
 6月9日(日)の「REBELS.61」(東京・後楽園ホール)ではREBELS 60kg級王座決定戦に出場。対戦相手はWBCムエタイ日本統一王者&INNOVATION王者の2冠王、葵拳士郎(マイウェイジム)である。鈴木にとっては初のタイトルマッチで初のメインイベント抜擢。しかも相手は格上。期待の大きさとプレッシャーにプルプル震えているかと思いきや……。
「ホント嬉しいです! REBELSのベルトはずっと欲しかったですし、メインイベントなんてチャンスですよね!」
 「よく『黙ってればイケメンなのに』と言われるんです」という鈴木が思いの丈を(遠慮せず)バンバン語った!






伝統派空手、MMA、小比類巻道場、スポーツジムインストラクターを経て、
「未経験のふりして」クロスポイント入会



 父はスペインとペルーのハーフ。母は日本人だが「辿っていくとロシアの血が入ってるみたいです」。両親は日本で知り合って結婚し、ペルーへ。
「僕はペルー生まれで、弟の千裕(ちひろ)がお腹の中にいる時に家族で日本に戻ってきたので弟は日本生まれ、僕は3歳からあきる野市で育ちました」

 「よく外国人観光客に英語で話しかけられる」というその彫りの深い顔立ちで子供の頃は嫌な思いもした。
「みんなと顔立ちが違いますからね。目がパッチリしてるんで『デメキン』とからかわれたり、肌が若干黒いんでそのことを言われたり。こういう性格なので(笑)気にしてはいなかったですけど、結構、内心は傷ついてましたねー。自分では覚えてなかったんですけど、お母さんに『目を細くしたい』って相談したこともあったそうです。
 今でも自転車に乗ってると、よくお巡りさんに『ちょっといい?』って止められるんですよ(苦笑)。免許証を持ってないんで保険証を出すんですけど『これ、君の?』って聞かれて『そうなんです、鈴木なんですよー』って説明してます(苦笑)」

 格闘技には幼い頃から親しんでいた。
「お父さんが格闘技好きで、小さい頃から一緒にK-1を見てました。4~5歳の頃に無理やり伝統派空手の道場に入れられて、それからずっと寸止めの空手をやってました。
 中3の頃に『人を殴ってみたい』と思うようになって(笑)、キックボクシングを始めたんです。高校ではUFCのリョート・マチダの試合を見て『MMAをやりたい、MMAのプロになりたい』と思うようになって、キックと同時進行でMMAもやってました。ジム主催のスパーリング大会に出たり」

 だが、MMAで頭角を現すのは3歳下の弟、千裕だった。昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級優勝の千裕は、子供の頃から身体能力や運動センスの点で兄の宙樹より遥かに上だったという。
「弟はバック転とかも普通に出来ますし、試合を見て貰えば分かると思いますけど自分より遥かに才能があるんです(苦笑)。自分は女の子にびっくりするぐらいモテなくて『喋んなきゃカッコいい』と昔から言われるんですけど(苦笑)、我慢できないんです、喋っちゃうんですよー(笑)。だから、弟は『失敗作』を見てるんで、運動神経も、モテも、全部持っていきました(笑)。
 MMAを始めた時も、弟はあっという間に強くなっちゃって。『やべえ!』と思ったんですけど自分はアマチュアのMMAの試合で勝てなくて、それが嫌でキックに行ったんです」

 空手道場のつながりで高校時代から週1で小比類巻道場に通い、高校卒業後は小比類巻道場の寮に入り、プロデビューを目指して日夜練習に明け暮れた。が、体育会系の厳しさにまったく付いていけず、数か月で挫折。

「はい、半年ももたなかったですー(苦笑)。小比類巻道場を辞めた後は、トレーニングジムでインストラクターをやってました。『もうキックボクシングは出来ない』と思ってたんですけど、弟がクロスポイント吉祥寺に通ってて『自分もやりたいな』と思って。最初は『未経験なんです~』と言って入会したんですけど、練習してたら山口会長に『プロ練に参加してみない?』と誘われまして。
 だけど、クロスポイントには小比類巻道場でお世話になった外さん(外智博・現クロスポイント大泉会長)がいて、すぐバレちゃったんです(苦笑)。ある時、会長に呼び出されて『お前、何か隠してることあるだろ?』と言われて『すみません、実は小比類巻道場にいました』って正直に全部話しました(苦笑)」

 晴れて「経験者」としてクロスポイント吉祥寺のプロ練に参加し、アマチュア大会に出場するようになったが、意外にも当初はまったく勝てなかった。

 山口会長はこう振り返る。
「宙樹はアマチュア大会で連戦連敗だったんですよ。とにかく手を出せなくて消極的な試合ばかりで、セコンドについた僕に怒られ、高橋(ナオト)さんには『アマで勝てないなんて、才能ないから辞めた方がいいよ』と言われてました(苦笑)。
 ただ僕は怒りながらも『キックは諦めないで最後まで続ける人間が勝つから続けなさい』とは話してましたね。いいものを持ってるのに、試合になると考えすぎて手が出なくて負ける。手が出るようになればバンバン勝てるようになるなと思ってたので。そうこうするうちに、試合で自分から手が出せるようになって、トーナメントに優勝して大会MVPを貰ったりして開花しましたね」






山口会長と高橋さんのおかげで、『試合の方が楽だな』と思えるんです。
葵選手も全然問題ないですよー。



 20歳でプロデビューして現在まで10連勝。そのうちKO勝ちが7つあり「REBELSきっての倒し屋」に成長中だ。
「倒せるようになったのは、山口会長と高橋さんのおかげなんです」と鈴木。
「アマチュアの時、セコンドに付いていた会長が試合の途中でいなくなっちゃったことがあるんです。試合が終わって、一度会長のいないところにサッと逃げて(苦笑)心の準備をしてから『今日はすいませんでした!』と謝ったら『お前の試合を見に来たのに、何やってんだ!』と怒られて、泣きながら帰りましたね(苦笑)。今でも会長がセコンドにいるとすごく緊張感があって『行けよ!』と言われると、バンと思い切りいけて、倒せるんです。
 この前の試合(4月20日、REBELS.60)も、1、2ラウンドはセコンドのヒデさん(炎出丸)と弟(千裕)の指示を聞いて戦ってたんですけど、3ラウンドが始まる前に会長が来て『行かないとダメだよ』と静かな口調で言われて。そこでスイッチがバン、と入って倒せました(笑)。もっと早いラウンドに来て貰えたら3ラウンドまで掛からなかったと思うんですけど……(笑)。
 本当に会長に言われると、バン、とスイッチが入るんです。怒られたくないですから(苦笑)」

 一撃で倒せるパンチは、現役時代「逆転の貴公子」として一時代を築いた高橋ナオトトレーナーに学んだ。
「高橋さんには週4、5ぐらい見て貰ってます。クロスポイント以外でもボクシングジムに連れていって貰って、福生の基地に勤務してるアメリカの人たちとスパーリングしてます。みんな体が大きくて、瞬発力とパワーがすごい人たちなので、スパーリングをしておくと試合ですごく楽なんです。
 自分、体は頑丈だと思います。『骨が硬い』とよく言われますし、拳も大きいんですよねー(笑)。昔からずっとパンチを練習してるわけじゃないんですけど、パンチ力を褒めて貰えるのも日本人にはないパワーのおかげなのかな、って。
 クロスポントだとマススパー(軽めに当てるスパーリング)が中心で、あんまりガチスパーをやらないんですよね。自分は小比類巻道場で『ガチスパーしかやらない』っていう練習でしたし、クレストとかK-1ジムはみんな『倒す練習』ですよね。マスだと気を使っちゃうので、自分は気を使わず、思いっきり殴れるガチスパーの方が面白いです。ボクシングジムでは笑いながら思いっきり殴ってますし(笑)、普段はマススパーでボコボコにされているんですけど、ガチスパーならクロスポイントの先輩たちにも負けるつもりはないですし。ただ、あんまりガチスパーはやって貰えないんです(苦笑)」

 試合で倒しまくってきた鈴木のパンチについて、山口会長はこう評する。
「拳が硬くて、パンチが本当によく伸びるんです。あの硬さと伸びは日本人にない、宙樹の身体的な特徴でしょうね。それプラス、格闘技オタクで研究熱心です。空いた時間はずっとYouTubeで試合を見て、技を研究してます。宙樹には、かつての山本元気君やラモン・デッカーみたいな、見てる人を魅了する『倒し屋』になってほしいと期待してます」

 山口会長の期待は、今回のメインイベント抜擢にも現れているが、当の本人は「メインイベントでタイトルマッチ」に特に気負う様子もない。
「メインも、タイトルマッチも、ホントに嬉しいです。会長には、会長の誕生日会で『日菜太を差し置いてメインだから頑張れ』ってサラッと言われました(笑)。チャンスですし、ずっと欲しかったREBELSのベルトなんで。
 遠慮しないで言っていいんですか? 対戦相手の葵選手の試合を見たんですけど『全然上手くないな。これでチャンピオンなんだ』と思いましたし、自分の中ではラッキー、ぐらいに思ってます。
 葵選手は2冠王ですけど、自分は普段、8冠王のT-98(タクヤ)さんと練習してますし、強い先輩たちとバンバンやってるんで。全然、何ともないです」

 鈴木にとっては、最大のライバル「弟・千裕」の存在も大いに刺激になっている。千裕は、昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級で優勝。5月26日のシュートボクシング「YOUNG CEASER CUP CENTRAL」(愛知・ホテルプラザ勝川)で立ち技デビュー(63キロ契約)が決まっている。
 山口会長は、宙樹、千裕の「スズキブラザーズ」がREBELSを変える存在になってほしい、と期待を寄せる。
「千裕も、日本人離れした体格とパンチ力の持ち主で、宙樹より血の気が多いタイプですよ。今回からキックに専念させるので、二人の倒し屋『鈴木兄弟』がREBELSを大いに盛り上げてくれるんじゃないですかね。
 宙樹にとって、今回は初めて自分より遥かにキャリアがあり、格上の葵選手との試合です。彼にとって凄くいい経験になると思いますね。もしかしたら上手くいなされてしまう可能性だってあります。ここをクリア出来るか否か、注目して見てます」

 鈴木は言う。
「自分は弟が強くなったのが嫌でMMAからキックに移ったのに、また弟がキックに来て強くなっちゃったら、次はどこに行けばいいんですかね?(笑)
 でも、自分は弟に負けるつもりはないですし、まず葵選手を倒して、ずっと欲しかったREBELSのベルトを巻きます。そうしたら今はいろんな団体があるんで、自分は会長が『行け』というリングに乗り込んで、その団体のチャンピオンをバンバン倒していきたいです。自分はずっと会長に付いていきたいと思ってるんで。
 自分の希望としては、次はREBELSのタイトルマッチなんで難しいかもしれないですけど、最初から会長にセコンドにいていただけたらなー、と。会長がセコンドにいると気持ちが全然違います。やっぱり信頼してる方なんで、会長の指示ならすんなり入って来るんです。KHAOS(現K-1 KHAOS FIGHT)の時も、会長の指示通りに攻めたら1ラウンドでポンと倒せたんで。
 前回の試合前も週4ぐらいでスパーリングしたんで、試合になると『楽だな』と思えたんです。自分は打たれずに殴るんでダメージもないですし(笑)、ボクシングジムとクロスポイントでどんどんスパーリングをして、パンチを磨いて、メインでしっかりと倒してベルトを巻きます。応援、よろしくお願いします!」

プロフィール
鈴木宙樹(すずき・ひろき)
所  属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1996年11月20日生まれ、22歳
出  身:東京都三鷹市
身  長:175cm
戦  績:10戦10勝(7KO)無敗。

^