鈴木宙樹、白幡裕星、工藤“red”玲央、津崎善郎インタビュー

インタビュー

公開日:2020/2/18

取材・撮影 茂田浩司

2月29日(土)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.64」の出場選手が2月1日、クロスポイント吉祥寺でおこなわれた公開練習に参加。
 鈴木宙樹が鈴木千裕との兄弟スパー、白幡と工藤、津崎と喜入衆(NEXT LEVEL 渋谷)でマススパーリングを披露した後、試合に向けた意気込みを語った。






 鈴木宙樹(クロスポイント吉祥寺所属。REBELS-BLACK(ひじなし)60kg級王者)
 メインイベントで、REBELS-BLACK60kg級王座防衛戦をおこなう。挑戦者は「ブラジリアン・タイフーン」ピラオ・サンタナ(チームサンタナ)。

「拳の状態は7割だけど問題なし。パワーでもテクニックも負けてない。メインらしく、しっかりサンタナ選手をKOする」



 「半年ぶりの復帰戦になるんですけど、半年間しっかり練習してレベルアップしたつもりなんで僕は。それをみなさんに見て貰おうと思うんで。そこに注目して貰いたいですね。  サンタナ選手はパワーがあって、意外にもテクニシャンなところもあるんですけど。でも僕はパワーでも負けていないですし、テクニックもまったく負けてないと思うんで。メインらしく、しっかりサンタナ選手をKOして興行を締めたいと思います」
――メインでこういうところを見せたい、というのは?
「ここだとやってくれる選手がいないので、他のジムでやっているんですけど、ボクシングスパーは結構やっていますね」

――半年間のブランクは拳の故障でしたが、現在の拳の状態は?
「7割ぐらいの状態から良くならなくて、痛いんですけど、それは今回の試合でどれぐらい治ったかを確認したいのもあるんで。拳はあまり気にしてないですね」

――「7割」の段階で大丈夫ですか?
「まだ100の力で打つと結構響くんですけど、しっかりとバンテージを巻けば痛みは軽くなるので。試合ではバンテージをガチガチに巻いて殴れると思うんで」

――サンタナのぶん回し系のパンチの対応は?
「あまりブンブン振ってくる相手と戦ったことがないのであまりイメージが出来ないんですけど、いろいろと振ってくる相手との対策は練ってるのでそれをしっかりやっていこうと思ってますね。サンタナ選手はいろいろと動きのクセがあって、それをしっかり見て、合わせて倒してやろうかな、と思ってます」

――後ろ廻し蹴りもありますけど。
「後ろ廻し蹴りをやる前も結構、前兆みたいのがあるんで。そういうのを見ながら、そこにカウンターを合わす練習もしてるんで。そこも見て貰いたいですね」





 白幡裕星(橋本道場所属。MuaythaiOpenスーパーフライ級王者)  セミファイナルでREBELSスーパーフライ級王者・老沼隆斗と王者対決。

「REBELSスーパーフライ級のベルトは安本晴翔先輩が巻いていたベルト。今回はノンタイトル戦だけど、絶対に負けられない」



「王者対決と言われることが多いんですけど、僕の中で絶対負けられないな、と思ってる理由が1つありまして。REBELSスーパーフライ級のベルトは、僕の先輩の安本晴翔先輩が巻いていたベルトなので。今回はノンタイトル戦ですけど、絶対に勝って、いい試合をしたいと思います」
――「老沼対策」は?
「僕の中でカギになる技はあるんで、それを今、練習でやってます」

――警戒してるところは?
「警戒してるところ……、えっと、蹴り技ですかね」

――今、17歳で高校2年生ですか?
「いえ、高校には行ってなくて、格闘技一本でやってます」

――今年、達成したい目標は?
「今年は、スーパーフライ級で僕が一番強いと言われるぐらいになりたいです」

――現時点で老沼選手に勝つ自信は?
「100%です」

――決着はKO?
「そうですね、僕の戦績にまだKOがないので、今年はKOできたらいいなと思ってます」

――橋本道場では主にどの先輩に鍛えられてますか?
「晴翔先輩を含め、いろんな先輩に鍛えられてます」

――安本選手に前蹴りで吹っ飛ばされてる動画を見ましたがあれは白幡選手?(「安本晴翔被害者の会」と題して橋本師範がSNSにアップ)
「はい、そうです(笑)」

――あれは……後輩への愛情?
「ちょっと分からないです、愛情だと信じてます(笑)」

――日頃から安本選手とスパーリングしてると、自信を持って試合に臨めますか?
「でも結構、やられるので。逆に自信を無くしたりもします」





 工藤“red”玲央(teamTEPPEN所属)  今大会から始まる「REBELS-RED(ヒジありルール)53.5kg級王座決定リーグ」に参戦。今回は響波(Y‘glow)と対戦。

「僕はベルトを獲らないといけない男。『REDルール』って僕のルールみたいなもんだから」



「リーグ戦にかける思いは僕が一番強くて、必ずチャンピオンになって今年を締めるんで、応援よろしくお願いします。  対戦相手は背がデカいっていうのと。全然面識はないんですけど、僕が出てる大会にかぶってて。でも階級が下だったんでやることはないなと思ってたんですけど。まあ(階級を)上げてきて、次にやるんですけど、全然問題ないです。圧倒して勝ちます」
――なぜ「一番強い」と言い切れるんですか?
「僕が出ないと多分、盛り上がらないですね。メンツを見ても。そういう風に思ってます。てかそうです」

――ベルトへの思いも強いですよね。
「そうです、はい」

――そこを語っていただいて。
「ベルトへの思い? 僕は、ベルトを獲らないといけない男なので。獲って辞める、獲って締めると決めてるんで。それはプロデビューした時から、いろんな人と約束もしてるんで。だから、リーグ戦という凄いチャンスをいただいて。それに『REDルール』って僕のルールみたいなもんだから(笑)。だからまあ、僕がそのベルトを巻きます」

――前回の試合からどうレベルアップしてますか?
「体のキレと、全体的にレベルが上がってて。練習に対する姿勢だったり、上がってるんで。実際、試合をやらないと『どこが上がってる』とか分からないですけど、それは見ていただいたら分かるんで。まあ、テクニックは以前より上手くなってる」

――KOします?
「はい。あ、TKOかもしれない(笑)」

――ヒジの調子もいいですか?
「はい、別になんでも。(相手の)背が大きいんで、無理やりヒジを振っても当たらないじゃないですか。それはしっかり考えて、対策してます」

――1月にタイのペッティンディージムに行ってましたが、練習の成果は?
「一番は、自分の取り組んでる姿勢がそこに行ったことによって、まだまだなんだな、って知って。さらに練習に対する姿勢だったり気持ちの作り方だったりを学んだなって感じで。練習自体は1日2、3時間で決まってたんで。朝5時に起きて15キロ走るとか、精神的に鍛えられて。帰ってから、練習の取り組み方が変わりました」





 津崎善郎(LAILAPS東京北星ジム)  元新日本キックミドル級王者、喜多村誠(伊原道場新潟支部)と対戦。

「喜多村選手はすべてにおいて格上で、2年前のスパーではボコボコにされた。でも僕もその時より強くなってるので、思い切りぶち当たって倒すつもり」



「昨年のタイトルマッチからの復帰戦で、新年1発目ということもあって負けれないな、と。勝ちを獲りに行きたいと思ってます。  喜多村選手、すべてにおいて僕より格上の選手。正直、不安もありますが、こんな強い選手とやれるチャンスもなかなかないので楽しみの方が大きいです。胸を借りるつもりで、思い切りぶち当たりたいと思ってます。」
――昨年のタイトルマッチは大流血戦でしたが、懸命に戦う姿に「感動した」という声も多かった。反響は?
「『いい試合だった』とたくさんの人に言って貰えて。自分自身、出し切ったところもあったので満足はしていたんですけど、日が経つにつれて負けた悔しさも出てきて。もう1回挑戦したいな、という今はそんな気持ちです」

――今回の喜多村選手は元新日本キック王者。もう一段、高いレベルへの挑戦に。
「実は2年ぐらい前に、喜多村選手とスパーリングをしたことがありまして。その時に、ホントにボコボコにされて(苦笑)。こんなに強い人がいるんだな、と思ったんですけど、その時よりは自分も強くなってますし、今回は倒すつもりで」

――石毛会長からはどんな指示が?
「それは秘密なんですけど、現役ラジャチャンピオンの石毛会長からもう指示はいただいてます」

――自分自身でレベルアップをしたところは?
「前回もそうだったんですけど、僕はパンチがあまり上手じゃなくて、今、ボクシングテクニックをちょっとずつ、頑張って練習してます。教えてくださる方がいるので。あと、瞬発系の走り込みの量も増やしました」

老沼隆斗、安達浩平インタビュー

インタビュー

公開日:2020/2/17

取材・撮影 茂田浩司

「REBELS.64」(2月29日、東京・後楽園ホール)に参戦する老沼隆斗と安達浩平が、2月2日、秋葉原のPHOENIXstudioの公開練習に参加した。
 老沼と安達、老沼と山上都乃(WSRフェアテックス湖北)でマススパーリングを披露した後、共同インタビューで試合に向けての意気込みを語った。






 老沼隆斗(STRUGGLE所属。REBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王者)
 セミファイナルでMuaythaiOpenスーパーフライ級王者の白幡裕星(橋本道場)との王者対決に臨む。

「REBELS王座とSTRUGGLEの看板を背負ってて、いつもより勝ちたい気持ちが強い。テクニックもスピードもパワーも全部上回ってるところを見せます」



 「練習もいつも通りにやってて、作戦も鈴木(秀明)会長と立ててきたのが今、バッチリ当てはまってるんで。それを試合に出せれば倒せると思います。見ててください。お願いします」
――対戦相手について。
「橋本道場は結構打ち合う選手が多いかなと思うんですけど、白幡選手はサウスポー、左ミドルで距離を取るのが上手い選手で。その部分はやりづらい面はあるのかなと思うんですけど、僕も蹴りは得意で、蹴り合いになれば勝つ自信あるんで。あとは今練ってる作戦で押し切って、作戦を遂行したら勝てると思います」

――今回は王者対決です。
「はい、王者対決なのでREBELS王者の強さを見せるんですけど、ポスターに『STRUGGLE対橋本道場』と書いてあって。勝つ自信はあるんですけど、これは負けたらヤバいんじゃないかと危機感が。なので、ジムの看板を背負って、いつもより勝ちたい気持ちは強いです」

――REBELSのリングはいつ以来に?
「去年6月に空龍(あろん)選手とやったのが最後だと思います(老沼の判定勝利)。その後は新日本キックでやっていたので、約8か月ぶりですね」

――久々のREBELSでセミファイナル。
「本当はメインをやりたいと思っていたんですけど。タイトルマッチがメインになるのは当たり前だと思うんで、次はメインで組んで貰えるような試合をしたいですね」

――「メインイベント出場」は老沼選手がかねてからアピールしていることですね。実現するために、今回はどんな勝ち方をしますか?
「倒すのが一番なんですけど、もし倒せなくても全ラウンドを自分が取って、テクニックも見せて、パワーもスピードも全部上回ってるところを見せたい、と思いますね」

――その辺りの手応えは?
「そうですね、何をやっても負けることはないと思います。全部の技で、首相撲でも、遠い距離でも近い距離でも、全部勝ってると思うんで」

――STRUGGLEは、ぱんちゃん(璃奈)や松崎(公則)選手も活躍してて勢いがありますが、ジムの中で「自分はここは負けてない」というところは?
「ジムの中で負けてないところですか? えー、何とも言えないですね。目立ってるぱんちゃんがいて、松崎さんは『中年の星』という凄みがあって。なんか微妙な立場なんですけど(苦笑)。ジムの中でチャンピオンは僕だけなんで。あと、今年はもっとタイトルが欲しいですね」

――何本ぐらいですか?
「んー、数は興味がないんですけど、REBELSのタイトルで世界と付いてるベルトが欲しいです」

――今年はどういう老沼隆斗を見せていきますか?
「「去年は勝ちも多くて、タイトルも防衛できたんですけど1回負けてしまって(*2019年は6戦5勝(1KO)1敗)。今年は全勝で、圧倒的に。『老沼が出たら盛り上がるな、見たいな』と思わせる選手に、もっと成長していきたいです」

――KNOCKOUTの大田区総合体育館のような大きな舞台でも試合をしたい、という気持ちは?
「そうですね。大きな舞台も出たいですけど、後楽園ホールでも新宿フェイスでも、どの舞台に出ても自分が一番存在感を出していけるようにしていきたいです」

――今年の目標は?
「今年はタイ人と一杯試合したいし、タイでも試合をしたいです。あとはさっきも言ったように、世界タイトルが欲しいんで、どんどん全勝でやっていきたいと思います」

――鈴木会長から、老沼選手に対しては毎試合「倒して勝ちなさい」という指令が出ているようですが、今年はどうでしょう?
「そうですね。会長からは試合が終わった後に毎回『あそこで行ったら倒せたなー』というのがあるんで、今年は自分の甘い部分をもっと突き詰めて、足りない部分を埋めていけば倒せると思うんで。そこが一番の目標ですね」




 安達浩平(teamAKATSUKI所属。J-NETWORKバンタム級王者)
 REBELS-RED(ヒジありルール)53.5kg級王座決定リーグに参戦。前田伊織(北流会君津)と対戦。

「良太郎代表も持ってるREBELSのベルトを僕も巻きます。リーグ戦で一番の強敵は古村選手」



「今、絶賛追い込み中で体に疲れはあるんですけど、久しぶりの試合なんで楽しく練習できてるんで。いい感じです、はい」
――対戦相手について。
「試合の動画を2回ぐらい見ました。左ミドル、蹴り中心の選手かな、と。その辺はバッチリ、良太郎代表と一緒に対策を練ってやってるんで問題ないかなと思っています。KOします」

――53.5kg級王座決定リーグが今大会からスタートです。
「正直、ワクワクしましたね。良太郎代表もREBELSのベルトを持っていて、僕も前から欲しいなと思っていたので。王座をかけたリーグ戦に出られるのですごいワクワクしてます」

――リーグ戦を通してアピールしたいところは?
「ローキックが得意技なので、ローを特に皆さんに見てほしいですね」

――良太郎代表からは「安達はキャラクターがない」という指摘がありましたが。
「キャラクターですか(苦笑)。そうですね、僕は職業がプログラマーなので、頭を使って戦いたいな、と。IT系ですから(笑)、頭の中で『こう来たら、こう返す』というプログラミングを作ってやっていきたいな、と(笑)」

――「プライベートではご結婚されて。
「はい、去年の9月に結婚しました(笑)」

――新婚生活、キックボクシング、お仕事といろいろと忙しくて大変ですね。
「そうですね(笑)、練習も夜遅くまでやってるんで、なかなか家にいなくて。妻にもだいぶ迷惑をかけてると思うんですけど、いろいろと支えてくれているんで。結果でちゃんと期待に応えようかな、と思ってます」

――今回は全6選手でのリーグ戦。マークしている選手は?
「そうですね、僕は古村(光)選手が一番強敵かな、って思ってますね。サウスポーで、若くて勢いがあって、1ラウンドからガンガン来ると思うんで。古村選手とやる時は勢いに飲まれないように、しっかり対策を練ってやっていこうかな、って思ってますね」

――今年の目標は?
「REBELSのリーグ戦で全勝して、REBELS-RED53.5kgのベルトを巻きたいと思います」

「爆腕ビッグダディ」KING強介インタビュー

インタビュー

公開日:2020/1/14

取材・撮影 茂田浩司
撮影(コスチューム) 阪本勇

転居、転職、4児の育児、介護。
三重県伊賀市で練習環境も1から手作り。
それでもKING強介がリングに戻る理由



 2月29日(土)、東京・後楽園ホール「REBELS.64」より、REBELS-RED(ヒジあり)55.5kg王座決定トーナメントが開幕する。
「リーグ戦にして、いろいろな組み合わせが見てみたいと思うほど楽しみなメンバーが揃った」と山口代表。REBELSらしく「強さ+倒す力+個性派」の8選手が集結する中、1回戦から注目の倒し屋対決が実現した。元REBELS王者「爆腕ビッグダディ」KING強介と「リトルサイボーグ」タネヨシホである。
 30代、新しい仕事で悪戦苦闘しながらも家族を養い、育児や介護に追われながら、なおかつ「キックボクシングジム」のない三重県伊賀市で1から練習環境を作って、このトーナメントのオファーを受けたKING強介。彼が「REBELSで戦い続ける理由」とは。






 2018年2月、REBELS初参戦に際して、KING強介はこう宣戦布告した。
「西からREBELSを荒らしに来ました」
 その言葉通り、KINGはREBELS軽量級の「台風の目」となった。「門番」炎出丸(クロスポイント吉祥寺)に勝利すると、2戦目で王者KOUMA(ウィラサクレックフェアテックスジム)をKOしてREBELS王座獲得。宮元啓介(橋本道場)とは5ラウンドフルに激闘を演じてドロー、小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)には判定負け。しかし、2019年2月の「パンクラスレベルスリング」はTOKYOMXの生中継枠に登場すると「破天荒な天才児」栗秋祥梧(クロスポイント吉祥寺)の一撃必殺の左フックで目を負傷しながらも徐々に盛り返し、延長で見事に判定勝利を収めた。

「あの頃は純粋に、山口代表が作ってくださったストーリーを楽しんでました(笑)。地方にいて交わることのなかった世界チャンピオンや団体のエース級を当てていただくので、毎回『どうやって勝とう?』『どうやってぶっ倒したろう?』と考えて準備して、試合に臨むのが本当に楽しかったです」

 REBELSを主戦場にして、小笠原瑛作や宮元啓介らトップ選手たちと戦うようになると、周囲の反響も変わったという。
「地方のアマチュアの試合会場とか、どこに行っても声を掛けられるようになりましたね。REBELSさんは試合映像をYouTubeに上げてくれるので、みんなが見てくれて、僕のことを知っていただける人が本当に増えました」

 REBELSで格闘家として充実した日々を過ごす一方で、プライベートでは一家の大黒柱として厳しい状況に直面していた。
「妻の両親が倒れてしまい、介護のために妻は子供たちを連れて実家に帰ることになって、僕は神戸で大工の仕事を続けながら単身赴任でした。ずっとにぎやかに暮らしていたので、家族と離れた1年半で心がだいぶ滅入りましたね……」
 
 KINGは、昨年6月のREBELS.61で大野貴志(士道館新座ジム)との「KNOCKOUT初代スーパーバンタム級王座決定トーナメント出場者決定戦」に臨むも判定負け。その直後にREBELS王座を返還し、同年9月、背水の陣で臨んだ新日本キックでHIROYUKI(藤本ジム)に判定負けを喫した。

「もう全部辞めて、家族のいる三重県に帰ろう、と」

 KINGは三重県伊賀市に移住して妻の実家で家族との生活と新たな仕事をスタートさせた。「宮大工」の世界に飛び込んだのである。一般の住宅を建ててきた経験がまったく活かせない、一からのスタートだった。

「僕が勝手に思ってることですけど、どうせするなら『本物』を知りたいんです。大工の世界では『一番は宮大工』と言われるので、一度飛び込んでみようかと。これまでの経験はまったく活きません(苦笑)。社寺建築なので、建築方法が一般の住宅とまったく違うので完全な別ものですね。ペーペーですから毎日怒られてばかりですし、キックボクシングと同じでこちらの道も険しくて、修業時代の方が長い世界です。だけど、この年齢になっても受け入れてくれる環境があることに感謝しながらやってます。何に対してもそうですけど『求められてること』自体はいいことやな、と思うんです」

 新しい環境に慣れてきた頃、山口代表から「REBELS RED 55.5kg王座決定トーナメント」のオファーが届く。KINGは「出ます」と即決だった。
 三重県伊賀市に移住を決めた時は引退も覚悟していたが、自然と練習する仲間が集まり、キックの練習を続けることができたのだ。
「僕が伊賀市に来たことを知って『チャンピオンに教えて欲しい』と20代の若い子らが集まってきてくれたんです。『REBELSで頑張ってよかったな』って思いましたね。三重県にも『格闘技をやりたい』という人は多いです。でも格闘技のジムがなくて、愛好会はあるんですけど選手がいるわけではないので」

 だから今、練習環境を一から作っている。
「今はボクシングジムを間借りして週1回集まって練習してますけど、近々、体育館を借りてもう1日練習日を増やそうかと話してます。みんなで考えながらやっているのですごく楽しいですよ。
 僕自身は週6で練習してます。一人でも走ったりはできるので、周囲の山やいろんな場所で走りこんで『忍トレ』(伊賀市=忍者、にちなんでKINGが命名)してます(笑)」

 トーナメント出場が決まると、親戚の石原夜叉坊が練習に参加しに来てくれたり、KING自身、休日や年末年始の休暇を利用して、山口道場や京都野口ジムに出稽古に赴き、戦う準備を整えてきた。
 2月29日、トーナメント1回戦の相手は「リトルサイボーグ」タネヨシホと決まった。

「激しい試合をするメンバーが揃ったトーナメントなので誰と当たっても倒し合いになると思ってましたけど、タネヨシホ選手なら100パーセント、倒し合いですね(笑)。最後まで立っているのはどちらか。ぜひ楽しみにしてほしいです。
 負けていいことはないんですけど、2連敗して色々と気づかされたことがありました。HIROYUKI戦の途中で『楽しいな』と思ったんです。大野戦は『REBELSのチャンピオンとして、他団体のチャンピオンには負けられない。勝たなあかん、勝たなあかん』ばかりで視野も狭くなってて、楽しむことを忘れていたんですね。勝つことが大事ですけど、その大前提として自分が楽しまないと。
 あと、僕が戦う上で一番大事にしてるのが『気持ち』を見せることです。REBELSに参戦し始めた頃は、熱いファイトをして、勝っても負けても見てる人の心に残る試合を、と思ってたのが、最近はちょっと迷いが出て、大事にしてた気持ちを忘れかけてたな、と。
 タネヨシホ選手との試合では必ず『熱いファイト』をしますし、このトーナメントを勝っていって、今、僕についてきてくれる若い子らに『今の環境でも頑張ればやれるんや』って教えたいですし、見せたいです。
 2月29日のREBELS.64、ぜひ会場でKING強介の応援をよろしくお願いします!」

プロフィール
KING強介(きんぐ・きょうすけ:本名・安田強介)
所  属:team fightbull
1984年6月6日、35歳。兵庫県神戸市出身。
身長:163cm。26歳からキックを始め、2011年7月に27歳でプロデビューした遅咲き。持ち前の強打を武器にホーストカップ初代バンタム級王座、MA日本バンタム級王座を獲得。
2018年、REBELS-MUAYTHAIスーパーバンタム級王座獲得。昨年6月、KNOCK OUT初代スーパーバンタム級王座決定トーナメント出場者決定戦で大野貴志に判定負けを喫して、直後に王座を返上。
戦績:34戦16勝(8KO)16敗2分。

スアレック&江口代表インタビュー

インタビュー

公開日:2019/10/2

取材・撮影 茂田浩司

江口代表「PHOENIXの選手は勝ちに徹してくるからなー」
スアレック「ボクは倒します。長くなると疲れるから(笑)」

 10月6日(日)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.63×KNOCKOUT」。注目のメインイベントは「超攻撃型ムエタイ」スアレックと「帝王・梅野源治の後継者」雅駿介(PHOENIX)がREBELS-MUAYTHAIライト級暫定王座を巡って激突する。
 スアレックは日本語が堪能だが、シャイな性格もあってなかなか「踏み込んだ話」ができない。そこで、今回はスアレックのすべてを知る江口代表との対談で、ムエタイ選手らしからぬ「超攻撃型スタイル」を貫いてきた理由、スーパーライト級から1階級下げた訳など、スアレックの知られざる「強さの秘密」に迫った。






再来日後、なかなか試合が組めなかった。
「REBELSで育てて貰いました」(江口代表)



 江口代表は2012年よりスタージス新宿ジムで代表を務めている。2015年11月に「スアレック招聘」をしたのは、ジムの会員からもたらされた情報がきっかけだった。
江口代表「ウチの会員さんがタイでロン(スアレックの愛称)と出会って『日本に来たがっているタイ人トレーナーがいる』と紹介されました。来た時は結構おとなしくて、ホントに喋らなかった(笑)。仕事はとっても真面目で、ご飯を食べに行って飲んだらよく喋るようになりましたね(笑)」
スアレック「(笑)」

 スアレックは、2010年~2012年に日本でトレーナーをしながら試合に出て、ムエローク杯59キロムエマラソンJapan2011優勝、M-1ライト級王座獲得などの実績を残している。
 再来日後、スタージス新宿でトレーナーを務めながら、再び試合をすることを望んでいたが、なかなか試合が組めなかった。

江口代表「半年以上、ずっと試合が組めなかったです。やっとJ-NETで翔・センチャイジムと試合したんですけど(スアレックTKO勝ち)、その後もなかなか決まらなくて。山口さんがREBELSに出してくれるようになって、それからコンスタントに試合に出れるようになって。だからロンはREBELSさんで育てて貰いました」
スアレック「試合ができなかった間は練習だけしてました。会長は真面目な人で、ちょっとボクが練習をサボると『あれ、練習は?』って(笑)」

 REBELSでは、ハードパンチを武器に日本人トップ選手たちを次々とKOし「超攻撃型ムエタイ・スアレック」はエースとなった。

江口代表「日本人だと試合をたくさんして調子が上がったりしますけど、翔の時が3年ぶりの試合?」
スアレック「5年ぶりです」
江口代表「それだけ空いてるのに凄い試合をして、ブランクはまったく関係なかったんです。子供の頃から試合しているから経験が違いますし」

 スアレックの「凄さ」について、江口代表は「柔軟性」だという。
江口代表「パワーとかそういうことじゃなくて、なんでも吸収しようとして、こっちが『こうじゃないの?』というとなんでもやってみる。本人の引き出しも多いんですけど『いや、自分はこうだから』は無いですね。日本人だと練習して積み上げて、練習してきたことだけを試合に出しますけど、ロンは試合前に教わったテクニックをパッと試合で使ってしまう。運動神経が凄くいいのもあると思うんですけど」
スアレック「ボクは、見ればすぐ『こうすればいい』『ここを直せばいい』と分かります。相手の試合を見たら、パンチとかキックの強さ、クセも分かります。あと、ボクシングが好きだから、パッキャオとか有名な選手の試合やミット打ちの動画をいつも見て、打ち方とかを勉強してます」

 スアレックの柔軟性はトレーナーとしても発揮されている。スタージス新宿には、期待の重量級ファイターでデビューから4連続KO勝利中の吉野友規がいる。剣道で国体優勝、実業団でも活躍した後、29歳でキックを始め、昨年12月に32歳でプロデビューした異色中の異色、超遅咲きのキックボクサーである。
江口代表「ロンは、吉野にはムエタイはまったく教えてないですよ。前蹴りとか教えた時ある? 左ミドルは?」
スアレック「はい、教えてないです(笑)。ヨシノは体が硬いから(苦笑)、パンチをたくさん教えてます」
江口代表「練習では結構蹴らせたりはしてるんですけどね(笑)。試合前は『今日は左でいきます』というんですけど、試合が始まると右、右、右で(笑)」
スアレック「(笑)右のパンチは強いです」

 今年からスアレックはライト級に下げており、今回は2階級制覇を狙う。
 スーパーライト級(63・5キロ)で圧倒的な強さを見せたスアレックが1階級下げたのは理由があった。
江口代表「スーパーライトだと身長180cmぐらいの相手が出てきたり(苦笑)。ロンは63・5だと減量らしい減量もないので、正直、63キロではやらせたくないなとは思ってました。ベストは62キロかもしれないですけど、ライト級までは落ちるというので。選手も多いので、どんどん試合をしたいからライト級の方が、とは前から言っていたんですけど」
スアレック「今、普段は67ぐらいで、今日(試合1週間前)でラストのランニングが終わると65ぐらいです。だいたい試合の3日前から落として、ライト級は全然問題ないです」
 現在、33歳。パワーは健在だが、怖いのは怪我。
スアレック「パワーはまだまだ、全然大丈夫ですね。ただ、お酒はちょっと弱くなってます(笑)。前みたいに一杯飲むと、頭が痛かったり、肩が痛くなったり(苦笑)」
江口代表「パワーはむしろ前よりも上がってるんじゃないかな。その分、拳を痛めたりもしてますね。前回の翔・センチャイジムの時(8月の「REBELS.62」)は、試合2週間前にスパーリングで拳を痛めて、それから全然練習でパンチが打てなくて」
スアレック「試合中にも拳を痛めて、蹴ったら足も腫れてきたから、2ラウンドが終わって『どうしたらいいかな?』って(苦笑)。それで3ラウンドは組みでいきました」
江口代表「いつもならもっと倒しにいくんですけど、あれ以上やると壊れちゃうんで(苦笑)。ダウンも奪ってるし、ロンは首相撲も本当に上手いので」

 最近は日本人選手から「スアレックとやりたい」と名指しされることも多くなったが、江口代表からすれば「え?」と思う。
江口代表「前はこっちが無名で、ロンが頑張ってくれて試合もアグレッシブに、有名になるために『タイ人』という概念を壊す試合をしてきて。それで今、日本人の選手がいきなりツイッターで『やりたい』と言ってきたり。向こうはキャリアの糧になる相手でモチベーションが高いだろうけど、こっちからしたら『知らないよ』っていう(苦笑)。そういう選手とやるのは面倒くさいですね。だから、やりたい選手たちでトーナメントでもやって貰って、勝った選手とロンがやるとかしてほしいです」






「人に聞いて対策しても、自分がやるのは難しい。
試合では、できないと思います」(スアレック)



 いよいよ2階級制覇をかけた雅駿介との試合が近づいてきた。
 雅はREBELS公式インタビューで、スアレックと対戦経験のある梅野源治や杉本卓也から情報収集し、シミュレーションを重ねて万全の「スアレック対策」で臨む、と公言している。
 これに対して、スアレックは「できないです」と言い切った。

スアレック「(対策しても)そんな変わらないと思います。人から聞いても、自分がやるとなると難しいです。ボクとの試合ではやれないと思います。昨日も試合の映像を見たけど、大丈夫、全然問題ないです(笑)。ボクも、アマチュアやトップのプロ選手とスパーリングしてきてるので」
江口代表「週に1回、クロスポイント吉祥寺に行かせて貰ってて、スパーリングをしてます。あそこは選手が一杯いるので」
スアレック「今回は不可思と(鈴木)千裕とスパーリングしてます。不可思は4ラウンド、千裕と3ラウンド。その後はタイ人トレーナーとミットです。栗秋(祥梧)? いつも『今日は頭が痛い』って、ボクとはスパーリングしてくれないです(笑)」
江口代表「避けられてるみたいですね(笑)」

 「千裕」の名前が出たので、10月4日「KNOCKOUT×REBELS」(後楽園ホール)のメインイベント、橋本悟(橋本道場)対鈴木千裕の予想を聞いてみた。
 今回がプロ40戦目のベテラン「激闘大魔神」橋本悟か、キックルール2戦目ながら「クロスポイント吉祥寺NO.1」と言われる強打を買われて大抜擢された二十歳の鈴木千裕か。
スアレック「ボクは悟さんの試合は何回も見てて、パンチが本当に重いです」
江口代表「この前の公開練習でスパーリングもしたよね?」
スアレック「あれは遊びのマス(スパー)なので(笑)パンチ力は分からなかったですけど、試合を見てると本当に重いです。タイミングが合ったら、相手は倒れます。ただ、千裕もパンチが重いです。ワンツー、ボディ、ストレートとか、得意なコンビネーションを持ってます。だから、先に当てた方が倒れる試合ですね」

 スアレック対雅に話を戻す。江口代表は「PHOENIXジムのタイ人トレーナーが立ててくる作戦」を警戒する。
江口代表「ロンは、PHOENIXの梅野選手、前口(太尊)選手と試合をしましたけど、試合前に言ってることと真逆のことをしてきたり、前の試合から作戦を変えたりしてくるので。あまり『こう来るだろう』と固まって見ないようにしてますね。梅野選手との試合では、まさかあんなに守ってくると思わなかったです(苦笑)。ロンを倒しに来るぐらいくるかなと思ってたら、すごくディフェンシブに左ミドル主体で。『それがムエタイ』といえばそうなんですけど、言葉は悪いですけど『勝つためだけ』にやってきてて『お客さんのために見せる試合』はしないんで」
――では「激しい打ち合い」にはならない?
江口代表「PHOENIXのタイ人トレーナー次第じゃないですか(笑)。ローを蹴ってくるのか、ヒジで来るか、首相撲で来るのか。勝ちに徹してくるんじゃないかな」

 江口代表は「ライト級のスアレック」に絶対の自信を持つ。
江口代表「負けないですよ。よく『試合を楽しめ』なんて言われますけど、ロンは本当に試合を楽しむんですよ。練習のスパーの方が緊張してるよね?(笑) クロスポイントに行く日はずっと下を向いてて(笑)」
スアレック「クロスポイントでスパーリングをする時は、いつも相手が二人待ってて(苦笑)。一人が終わると、次にもう一人の元気な人が来るので疲れます(苦笑)」
江口代表「試合に向けて、気持ちをグッと上げていくのは本当に凄いですよ。ロンを見ていたら試合前に緊張するのがバカくさいというか、試合前のロンはいろんな選手の参考になると思いますよ。吉野もロンを見てるから変わってきてて、試合前に向けてグっと気持ちを上げるのが上手くなってます。試合前のロンはリラックスしてて怖がるとかは一切なくて、緊張はしてるんでしょうけど、本当に『勝つために必要なこと』だけをしてる感じです。戦いなんで『怖がっていたら、やられちゃうぞ』という」
スアレック「試合は楽しいんです。練習はとても長いから、スタミナが心配(苦笑)」
 最後に、スアレックは力強く「KO宣言」をした。
スアレック「倒します。長い試合になると疲れるから(笑)。(雅は)試合を見ると攻撃が軽いです。パンチは重くないし、ヒジもそんなに危なくはないです。(雅は)良太郎のパンチも結構効いていたので、ボクのパンチを受けたらもっと効いてしまうでしょう。ボクが倒して、REBELSのライト級チャンピオンになります」

プロフィール
スアレック・ルークカムイ
所  属:スタージス新宿
生年月日:1986年3月16日
出  身:タイ国ウボンラチャタニー県
身  長:166cm
戦  績:145戦99勝(32KO)35敗11分
タイトル:元REBELSーMUAYTHAIスーパーライト級王者、元ラジャダムナンスタジアムフェザー級7位

江口真吾(えぐち・しんご)
生年月日:1977年11月11日
出  身:青森県
元全日本キックミドル級、スーパーウェルター級1位

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