森貴慎インタビュー

インタビュー

公開日:2019/2/13

取材・撮影 茂田浩司

軽量級の倒し屋、“ベビーフェイス・アサシン”が待望のREBELS初参戦。
「相手の『穴』を見つけるのが得意なんです。僕のパンチが当たれば、老沼選手も倒れますよ」

 2月17日(日)、新木場スタジオコーストで開催される「PANCRASE REBELS RING.1」(パンクラス・レベルス・リングワン)。日菜太対現役ムエタイ王者シップムーン、「筋肉美女」ぱんちゃん璃奈vs「女子高生ファイター」川島江理沙のトライアウトなど、多彩なカードが並ぶ中、格闘技ファンにぜひ注目してほしいのが次代の格闘技界を担う若きチャンピオン対決、老沼隆斗vs森貴慎である。

 REBELS-MUAYTHAI王者の老沼は弱冠二十歳。90年代を代表する「ムエタイキラー」、現STRUGGLEの鈴木秀明会長の薫陶を受け、ベルト獲得後も着実に成長を続けている。
 対する森は、デビューからわずか2年でベルトを巻くと共に、軽量級ながら7割のKO率を誇る「ベビーフェイス・アサシン」。

 実は、両者はかつて対戦した経験があり今回が再戦。だが、双方ともその事実を大会の記者会見では触れなかった。
 そこには「天才は天才を知る」森と老沼の互いの才能を認めあったリスペクトと、隠れたライバル関係があった。
「老沼君との試合がなければ、僕はここにいないです」
 森貴慎と老沼隆斗の間に、何があったのか。






荒れに荒れた十代。母親の涙で更生を誓い、
24歳でプロデビューしたものの、
18歳の「天才空手少年」老沼にKO負け…。



 トイカツ道場を主宰する戸井田克也代表が道場の様々な情報をYouTubeで発信する「トイカツの部屋」。2018年6月にJ-NETWORKバンタム級王者となった森貴慎が出演している。

https://www.youtube.com/watch?v=AXljJqEhmw8

 そこでは「母子家庭に育ち、グレて、母親を泣かせた」というエピソードが語られている。現在の優しい表情からは想像も出来ないが、十代は荒れに荒れていた。

「グレてましたね(苦笑)。中学を卒業して、美容専門学校に進学したんですけど、先生とちょっと揉めてしまって1年で退学して。
 資格も取れなかったし、地元でいろいろとヤンチャしました。だけど、警察に補導されて、母親が泣きながら、体を震わせて警察署に迎えに来たんです。その母親の姿を見て『ちょっと、俺はダメだな』と思って、ヤンチャするのを一切辞めました」

 18歳から板金工として働きながら、ボクシングジムに通う友人と週1でボクシングの練習をし、20歳から本格的にキックボクシングを始めた。これが森にとっての転機となる。

「子供の頃からスポーツは何でも得意で、野球でもサッカーでもすぐに出来てしまうんです。今もそうなんですけど、試合の動画を見てて『この技、いいな』と思うと真似したり、スパーリングしてて相手の技を受けて『これを自分もやってみよう』って。他人の技を見て、自分のものにするのが得意なんです。すぐに出来てしまうんですよね」

 23歳で上京し、東京・中野のセンチャイジムに通った。1年間、アマチュア大会に出て腕をみがきながらプロデビューを目指したが、また「ヤンチャな血」が騒ぎ出す。
「まだイケイケの頃で遊んでしまって(笑)。ジムと音信不通になった時があって、1か月ぐらいして連絡したら『また通っていいよ』と言われたんですけど。一度環境を変えて、しっかりやりたいと思ってトイカツ道場に入ったんです」

 2016年8月、24歳でプロデビュー。
 抜群の運動センスを武器に、プロでも勝ち続けてタイトルを獲りたい、と考えていた森の前に、一人の天才少年が立ちはだかった。
 まだ18歳で、当時は正道会館に所属していた老沼隆斗である。

「トリビュレイトで老沼選手の対戦相手が怪我をして、欠場になったんです。試合の1週間前で代役を探してて、僕に声が掛かったんですけど、その頃はまったく練習をしてなくて(苦笑)。体重だけ落として試合したんですけど、調整不足だし、そんな状態で勝てるほど甘くなかったです。
 2Rに老沼選手のハイキックを喰らって、KO負けしました」

 この2016年12月のプロ2戦目でのKO負けを機に、森は一層、キックボクシングに真剣に取り組むようになった。まず、自分のスタイルを見直した。
「実は、老沼選手との試合はオーソドックスでやったんです。元々、左利きですけど、野球は右投げだったんで『キックも右かな』と思ってやってたんですけど、何か上手くいかなくて。
 それで、老沼選手に負けて、サウスポーに変えてみたら、しっかりと攻撃に力が入るようになって『これだ』と。それから、試合でも倒せるようになったんです」

 リベンジの機会は意外に早く訪れた。ただし「間接的に」だ。2017年3月のJ-NETWORKで、森はSTRUGGLEの中田ユウジと対戦。左ストレートとヒザ蹴りで1RTKO勝利を収めた。
「バッチリ倒しました(笑)」






森は、己の感覚と拳に絶対の自信を持つ。
「老沼選手は強いです。厳しい試合になると思う。
だけど、僕のパンチが当たれば倒せますよ」



 いよいよ約2年ぶりの再戦の日がやってくる。
 ただ、不思議なのは、1月17日の大会記者会見ではチャンピオン同士の「王者対決」について両者ともに語りながら、この対決が「再戦」である点には一切触れなかったことだ。

「僕は『老沼選手から何か言って来るのかな?』と思っていたんですけど、老沼選手からなかったんで。あれから、老沼選手はSTRUGGLEに移籍して、試合をするたびに別人のように強くなってますよね。でも、僕もサウスポーに変えて、キャリアをしっかりと積んできたんで、自分の成長度合いが分かる試合だと思います。
 判定になれば不利だと思うんです。老沼選手はポイントを取るのがとても上手いので。だから、ダウンを奪ったり、倒すことは意識してますね」

 記者会見で、森はこう言い切った。
「REBELS初参戦で、インパクトのあるKOを見せたい」
「(老沼が)パンチで来てくれて、打ち合いをしてくれたら、上等で打ち合う気でいるんで。多分、蹴ってくると思うんで、自分も負けないように蹴り返して、パンチの距離で倒せたら、と思います」

PANCRASE REBELS RING.1 公開記者会見 第1弾
https://youtu.be/x-GPPLb1CXQ?t=3355


 森の言葉からは「自分のパンチが当たれば必ず倒せる」という絶対の自信が感じられた。
 その理由は「倒して勝ってきた選手」だけが持つ「倒す感覚」を、森はすでに自分のものにしているからだ。

「どんな選手にも必ず『穴』があって、自分はそれを見つけるのが得意なんです。よく『当て勘がいい』と言われるんですけど、それは自分でも分かってて、試合中に相手の隙や『ここだ』というタイミングが分かるんです。そこで思い切っていけば絶対に倒せますし、逆に、少しでも躊躇してチャンスを逃すと負けてしまう。だから、今回も『ここだ』というチャンスには絶対に詰めますので、見ている人にぜひ注目してほしいです」

 森には、この試合に向けてさらなるモチベーションを高める出来事があった。
「結婚して、妻が昨年11月に出産したんです。より一層気合いが入りましたし『やってやろう』という気持ちはもっと強くなりましたね。ずっとJ-NETWORKで試合をしてきて、ベルトを獲った時に『次は何かな?』と考えて、一度止まって、半年間、試合をしなかったんです。
 でも、今回はREBELSの生中継のある大きな舞台で、老沼選手というトップ団体のチャンピオンと試合が組まれて、再戦ですし、気持ちが全然違います。かなり気合いが入ってます。
 正直、厳しい試合にはなると思います。だけど、必ず盛り上げたいし、一番いい試合をしたいですね。老沼選手に勝てば、ダイレクトでREBELS-MUAYTHAIのタイトルマッチを組んで貰えると思うし。ベルトを獲るためなら、スーパーフライ級まで落としますよ」

 森には、背中を見据えている目標の選手がいる。
「JIRO(創心會)とは昔から付き合いがあるんですけど、彼がクロスポイント吉祥寺でインストラクターを始めた頃『一人だと淋しいから来てよ』と誘われて(笑)、クロスポイントさんに出稽古に行ったことがあるんです。そうしたら、小笠原瑛作選手にボクシングスパーをして貰ったんですけど、何も出来ずにボコボコにされました(苦笑)。
 階級が違うので『戦いたい』はないんですけど、僕も瑛作選手のようになりたいですね。瑛作選手のように世界タイトルを獲って、強いタイ人と戦ってみたいです。REBELSで結果を出していけば、そういうチャンスも広がっていくと思うので。
 REBELSのファンの人は老沼選手の強さを知ってると思いますけど、僕のパンチが当たればその老沼選手も倒せると思います。しっかりと作戦通りに戦って、KOして、必ずインパクトを残しますので、ぜひ注目してください」

プロフィール
森 貴慎(もり・きしん)
所  属:トイカツ道場
生年月日:1992年1月13日生まれ、27歳
出  身:静岡県静岡市
身  長:167cm
戦  績:2016年8月プロデビュー、13戦10勝(7KO)3敗、J-NETWORKバンタム級王者

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