炎出丸(クロスポイント吉祥寺)インタビュー

インタビュー

公開日:2018/7/27

聞き手・撮影 茂田浩司

クロスポイント最古参、「吉祥寺の闘将」炎出丸(ひでまる)。
プロ14年目の覚醒と、強い思い。
「いずれ、KING強介を負かしたい」

 日菜太、不可思、T-98(たくや)、小笠原瑛作ら、トップキックボクサーを次々と輩出するクロスポイント吉祥寺。この最強軍団の最古参にして、プロ選手たちのまとめ役を務めるのが炎出丸だ。
 プロ14年目の35歳。キャリアは終盤に差し掛かっているが、今も「強さ」を追い求めて、日々、試行錯誤している。
 REBELS.57(8月3日、後楽園ホール)では韓国王者パク・チャンヨンと激突。今回でプロ60戦目という節目を迎えた炎出丸に現在の思い、キックボクサーとして見据える「ゴール」を聞いた。






何もない状態だったクロスポイント吉祥寺。
現在は充実した環境でトレーニングに打ち込む



 今年4月、大幅なリニューアル工事を経て、クロスポイント吉祥寺の2階は「トレーニングキャンプ吉祥寺」に生まれ変わった。
 日本では珍しい自走式のトレッドミル=スキルミルを導入し、ウェイトトレーニング、ファンクショナルトレーニング、ケトルベル、パワーMAXなど、あらゆるトレーニング設備を兼ね備えており、炎出丸もここでトレーニングに汗を流す。

「すごく充実してますし、トレーニングの中身が本当に変わりました。昔は『必ず走らなきゃいけない』って先入観がありすぎて、毎日ロードワークをしてましたけど。ただダラダラ走っていてもキックはそういう競技じゃないですからね(苦笑)。『何のために走るのか』を考えて、今はただのロードワークは辞めました。キックボクシングという競技に必要なダッシュをしたり、ここ、トレーニングキャンプ吉祥寺でスキルミルやパワーMAXを使って、短時間で効果的なトレーニングをしてます。すごくきついし、パワーMAXは毎回吐き気がすごくて大変ですけどね(苦笑)」

 炎出丸は20歳でキックボクシングを始めた。ワイルドシーサー沖縄に所属し、2005年4月、22歳でMAキックの新人王トーナメントでプロデビュー。この時の対戦相手は山木ジムの原島佑治。この名前を聞いてピンと来た人は「REBELS通」と言えるだろう。REBELS.57の第一試合に出場する、テッサイジムの「原島モルモット佑治」である。

「今も、顔を合わせると『あ!』と思いますよ(笑)」

 現・原島モルモットとは本戦ドローも延長で勝利。続くトーナメント2回戦も勝利したが、準決勝の相手を見て、炎出丸は「勝てない」と思った。

「背が高くて、キャリアもあって『このままだと勝てない。東京に出て、本気でキックをやろう』と思いました。それで2005年9月に東京に出てきて、クロスポイント吉祥寺に入ったんです」

 クロスポイント吉祥寺は2001年3月にオープン。まだ現在のような設備は整っていなかったが、プロ育成に力を入れているジムだった。

「最初の頃は他でアルバイトもしてたんですけど、その頃から山口代表は『プロ選手はみんなインストラクターとして一般会員さんを教えながら、試合のファイトマネーだけで食える形に』と言っていて、そういう形を作っていったんです。俺も、月イチぐらいでバンバン試合を組んで貰ったんで、20代の半ばにはキックだけで食えるようになっていました。
 山口代表によく言われてたのは『一般会員さんを増やせば、インストラクターの仕事も増える。他でアルバイトするよりも移動時間がないし、練習が終わったらそのまま指導に入れる。会員さんが増えたら練習環境にもっと投資できるから』と。そういう話を聞いて『自分の環境は、自分で作らないといけない』という意識にもなりましたね」

 現在、REBELSのスポンサーをしている株式会社エム・ティ・エムは、炎出丸が偶然、社長と知り合ったのが縁となった。

「ロードワークをしてたら、犬の散歩に来てたエム・ティ・エムの社長さんに井の頭公園で声を掛けられたんです(笑)。そのことがきっかけで会場に来てくれて、会社ぐるみでREBELSを応援してくれるようになったんです。今では厳しいことも言ってくれる、ちょっと上の兄貴みたいな存在です。
 人と人がつながったり、紹介して貰ったりして、いろんな人に応援して貰うようになりました。プロ選手なら『キック1本で食いたい』と思うし、それは間違っていないと思いますけど、外に出て、会員さんと触れ合ったり、社長さんと話したりすることも大事じゃないかって思います。大変でしたけど、社会人としてもいい勉強になりましたし」

 クロスポイント吉祥寺の会員数は年々増加し、それに伴い、練習環境もどんどん良くなっていった。
 タイ人トレーナーが常駐するようになり、ジム全体でフィジカルトレーニングに取り組むのも早かった。

 山口代表は言う。
「炎出丸、T-98(タクヤ)、小笠原瑛作らプロ選手にはかなり早い段階からフィジカルトレーナーを付けて、パーソナルトレーニングをやらせていました。トレーニング設備がないので外のジムに行かせましたけど『これをジム内でやらせたい』と思って、それが実現したのがトレーニングキャンプ吉祥寺なんです。
 高い技術を持つプロ選手が、インストラクターとして一般会員さんに丁寧に、分かりやすくテクニックを教えたり、体力増進のためのトレーニングを教えて、それが評判になって会員さんが増えて、利益は練習環境に投資する。環境が良くなればプロ選手は試合で結果を出せるようになって『クロスポイント吉祥寺』『REBELS』の評判が上がり、また会員さんを呼び込める、という良い循環が作れるんです。
 トレーニングキャンプ吉祥寺はそうしてやってきたことの一つの集大成ですけど、僕の理想とする環境はもっと先にあります。これからもどんどん練習環境に投資して、選手を強くしていきますよ」

 炎出丸自身、練習環境が整い、強いプロ選手たちと日々、切磋琢磨して力を付け、2011年にはJ-NETWORKスーパーバンタム級暫定王座を、2013年にJ-NETWORKスーパーバンタム級王座を獲得する。

「今のクロスポイント吉祥寺は(小笠原)瑛作も、潘(隆成)も、T-98(たくや)も、プロ選手はみんなよく練習するんで、下の若い子たちはその背中を見れるから大丈夫かな、と思います。ただ、今の環境は当たり前じゃない、ということが分かってるヤツは少ないかもしれないですね。
 俺は、まだクロスポイント吉祥寺に何もないところから始めてるから、今でも『どうやったらもっと強くなれるか?』を自分で考えて、いろんなことを試してます。それがあったから今があると思うんで。若い選手には『とにかく量をやっておけよ』とか、気づいたことは言うようにしてます。けど『恵まれた環境が当たり前になってて、自分で考えなくなってるのかな?』と思う時もありますね」






KING強介のハングリーさを見て
「アイツを負かしたい、と思った」



 炎出丸は5年前から「能力トレーニング」に励んでいる。ボクシングの村田諒太で有名になった「ビジョントレーニング」を始め、様々な方法で脳を刺激し、活性化させるトレーニングである。

「目から情報を取り込むスピードを速くしたり、脳でその情報を処理する速度を上げたり。速読とか、いろいろなことをやって、僕はプロスポーツコースに通ってるんですけど、テニスとか競艇の選手がいてやっぱ凄いですし。その時間にいけなくて、別の時間に行くと子供とか普通の主婦のおばさんに能力テストで負けたり(苦笑)。それでムカついて、家でもやるようになりました。
 集中力はかなり上がりましたし、指導する時も役立っていますよ。ジムに人が多くなっても、色々と回せるようになってきて。
 アメリカでは学校でやってると聞くし、これから当たり前になっていくんじゃないですか」

 能力トレーニングの成果は、試合にも現れている。
 昨年11月のREBELS.53で、炎出丸は当時4連続KO勝利中で絶好調だった国崇(ISKA&WKAムエタイ世界フェザー級王者)と対戦。前半は国崇のローキックで左足の太ももが紫色に変色するまで攻め込まれたものの、コツコツと削り、後半は圧倒。結果、炎出丸が判定で勝利した。

「すげえ蹴られたのは覚えてるんですけど『痛い』と意識した瞬間、集中力が散漫になると思って『ダメだ、国崇さんに意識を集中しよう』って、足の痛みは意識しないようにしたんです。
 あの試合はすごく集中できて、最初は国崇選手の得意なヒジと飛び膝蹴りに気をつけてたんですけど、途中で『絶対に貰わないな』と思いました。
 試合が終わって、判定で勝って、ホッとした瞬間に足に痛みを感じて歩けなくなってしまったんですけど(苦笑)。それまではまったく『痛み』を感じないぐらい、国崇選手だけに集中していたんです」

 ただ、この「集中力」のコントロールは極めて難しく、今年2月のREBELS.54でのKING強介戦では上手く集中できなかった。

「梅野選手のタイトルマッチ(ルンピニースタジアム認定ライト級王座決定戦)で後楽園ホールが超満員になったのを見て『これは俺が一肌脱いで盛り上げてなきゃ』って(苦笑)。対戦相手に集中しなきゃいけないのに、余計な情報に気を取られてしまって、それが出来ていなかったんです」

 炎出丸は、強打を誇るKING強介と正面から打ち合い、ダウンを喫した。終盤は追い上げたものの、判定負けを喫した。
 この1戦で会場は盛り上がり、炎出丸には満足感もあったという。

「年齢のこともあって『どこで自分はやり切れるか?』とか色々と考えていた時で、KING強介と打ち合って、ダウンは取られて負けましたけど、どこかで『やり切った感』もあったんです。でも、周りの近い人たちの反応は悲しんでて。『やっぱ勝つところが見たいんだな』って」

 さらに、炎出丸を刺激したのはその後のKING強介の戦いぶりだった。「西からREBELSを荒らしにきた」と宣言したKING強介は「門番」炎出丸を退けると、今年4月のREBELS.55ではREBELS-MUAYTHAIスーパーバンタム級王者KOUMAに挑戦。
 強打を誇るファイター同士、壮絶な打ち合いが予想されたが、KING強介はKOUMAの強打をかわし、狙いすましたカウンター一撃。これでKOUMAをKOし、REBELSのチャンピオンベルトを奪い取った。

「強介は本当にハングリーで、KOUMAにも冷静に勝ちに行ったじゃないですか。あれを見て『アイツを負かしたい!』っていう気持ちが純粋にわきあがってきたんです。俺は1戦1戦勝ち抜いて、KING強介と再戦したい。目標が明確になりましたね」

 炎出丸は今「充実しています」という。

「人のアドバイスを聞きながら、色々と考えて試してます。クロスポイント吉祥寺では不可思と話すことが多いですね。アイツは感性が鋭いんで。だからセコンドも頼んでいます。
 2年前から食事を改善してます。それまでちょこちょこ怪我したり、ニンニク注射とか整体とかもよく行ってたんですけど、体の回復が早くなって全然行かなくなりましたし、風邪をまったく引かなくなったんです。フィジカルトレーニングで、少しずつ『どう作っていけばいいか』も分かってきて、今、すごく充実してます。
 能力トレーニングで集中力が上がっていることも実感してますけど、ここはまだ波があるんです(苦笑)。試合結果を見ても、宮元(啓介)戦、国崇戦はゾーンに入ったんですけど、KOUMA戦とKING強介戦は入らなくてダメでした。集中力のスイッチを探してて『こうしたら入りやすい』とかまだ色々と模索してます。本当に脳力、頭の方は限りないんで。
 今、俺は『KING強介に勝って、現役を終わること』を考えています。でも、その時に自分の感覚、感性が上がっていたら『もう1個上を』と思うかもしれないし。もっと若ければ、もっと色々なことを考えているかもしれないですけど。
 今の練習環境は本当にありがたいです。今度のパク・チャンヨン戦でもしっかり集中して、結果を出して、KING強介と再戦できるところまで上がっていきたいです。ぜひ会場に来て、応援をよろしくお願いします」

プロフィール
炎出丸(ひでまる 本名:大城秀幸)
所  属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1982年10月4日生まれ、35歳
出  身:沖縄県中頭郡
身  長:167cm
戦  績:59戦28勝(5KO)23敗8分
元J-NETWORKスーパーバンタム級王者

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